難治性潰瘍とは、標準治療を4週間行っても創面積が50%以上縮小しない潰瘍を指し、感染や合併症のリスクが高く、患者のQOLを低下させます。そのため、創傷の治療においては早期介入の考え方が重要です。
2000年代初頭に創傷に対する、より効果的な介入方法としてSchultzらがWound Bed Preparation(適切な創面環境調整)の重要性を提唱しました。加えて、創傷治癒を妨げる因子を取り除くことで治療過程を最適化するフレームワークとして、Wound Bed Preparationのための4要素から成る創傷評価・治療アプローチ「TIME」を提唱提唱しました*1)。
さらにこの「TIME」は2019年に新たに2要素を追加して「TIMERS」に更新することがAtkinらにより提唱され*2)、現在は「TIMERS」が最新の治療戦略の考え方となっています。
創傷ケアにおいて、TIMEの4要素「T:Tissue(組織)」、
「I:Infection/inflammation(感染/炎症)」、
「M:Moisture(湿潤)」、「E:Edge of
wound(創縁)」に基づいたアプローチで改善が得られない場合には、それら以外の創傷治癒に影響を与える要素を創傷ケアに取り入れる必要があるとされます。
具体的には「R:Repair and regeneration(組織の再生と修復)」と「S:Social-and patient-related
factors(社会・患者関連因子)」の2要素が重要であるとして、これらを追加したTIMERSが提唱されました。

“R”と“S”が追加された背景とポイント
難治性潰瘍の治療において、組織の修復・再生を促進する最新治療を駆使することが推奨されるようになりました。
TIMEに基づく創傷ケアだけでは改善しない場合には、併存疾患や患者のヘルスリテラシー等が創傷治癒を妨げる要因になっている可能性があるとして、
包括的患者ケアの重要性がより強調されるようになったのです。

標準治療に反応せず、考えうる危険因子(創傷の病態や感染、バイオフィルム、患者関連因子等)に対処したにもかかわらず創傷が治癒しない場合、最新治療を用いた“R”を検討することが推奨されています。
具体的には、細胞外マトリックス、細胞活性を刺激するシグナル分子/成長因子、幹細胞を用いる治療や、高圧酸素療法(HBO)、陰圧閉鎖療法(NPWT)等、創傷および患者の特性に応じて多様な作用機序を有する治療法が“R”として選択可能です。
例えば、ヒト羊膜・絨毛膜由来のEPIFIX®は創傷治癒を促進する細胞外マトリックスタンパク質、増殖因子、サイトカインおよび特殊なタンパク質等を含有しており、難治性潰瘍の治癒促進が期待できます。

“S”は、難治性潰瘍治療の転帰に影響を与える可能性があり、TIMERSの枠組み全体を網羅するテーマであるため、他の5要素と並行して考慮する必要があります。
カテゴリー | 具体例 | 対処法例 |
---|---|---|
心理社会的因子 |
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アドヒアランスに 影響を与える因子 |
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身体的要因および 併存疾患因子 |
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心理社会的因子 |
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難治性潰瘍に対しTIMEに基づく創傷ケアだけでは改善しないケースがみられたことから、
進歩した治療戦略としてTIMERSに基づく創傷ケアが推奨されるようになりました。
TIMERSでは、臨床における様々な実践的アドバイスが示されており、TIMERSに基づく難治性潰瘍治療が広く採用されることで、
個々の患者の治療過程が最適化されることが期待されます。
- *1 : Schultz GS et al. Wound Repair Regen. 2003;11 Suppl 1:S1-S28.
- *2 : Atkin L et al. J Wound Care. 2019;23(Sup3a):S1-S50.